ひらひら、ひらり。
「闇に舞う桜…か」
「風情があるだろう?…なぁ…兄上」
ひらひら、ひらり。
「…俺はお前の兄貴じゃねぇよ」
白い盃に注いである酒に、桜が降ってきた。一枚、ひらひらと。淡い桃色の花弁が。
「あぁ…そうだったな。…ん?有川」
「何だよ…ちょっ…」
唇の直ぐ横に掠めるように口付けられ、将臣は思わず目を閉じた。
その仕草にさえも煽られるのか、楽しそうに口元を歪めると、知盛は将臣からゆっくりと離れた。
「とととと、知盛っ!?」
「桜が…付いていたぞ?」
そう言う知盛は、おそらく将臣に付いていたのであろう花弁をくわえ、妖しく微笑んでいた。かぁと顔を赤らめると、将臣は顔を背ける。
「…平家は、終わりだ」
「…何言ってんだよ…?」
「朽ちるなら…」
ひらひら、ひらり。
「終わるなら…この桜のように」
「知…盛…」
…ひら。
「お前の傍で…」
「言うな!!」
「え…」
「終わりだとか、朽ちるだとか、そんな馬鹿げた事言ってんじゃねぇよ!!」
盃に、波紋が広がり、その波に乗って、花弁が舞う。まるで将臣の想いと同調したように舞う花弁の窪みに透明な酒が雫となり、涙が零れているかのように盃の丸みを伝い。
「生きて…生きて俺の傍にいてくれよ…なぁ、知盛…」
それが叶わないことは知っているけど
せめて…
「有川…」
この桜のように
知盛は腕を伸ばすと、今にも散ってしまいそうな将臣を優しく腕に閉じ込めた。
俺の傍に…
了